庭木に発生し、刺されると電気が走るような激痛をもたらすイラガ虫。
安全で確実な駆除方法が分からずお困りではありませんか?この記事では、イラガ虫の見つけ方から、発生状況に応じた最適な駆除方法、おすすめ殺虫剤、再発予防策、万が一刺された際の応急処置まで網羅的に解説します。
イラガ虫の駆除は、発生初期なら葉ごと取り除くのが最も手軽で、広範囲なら殺虫剤や専門業者の利用が確実です。
目次
イラガ虫とは 刺されると危険な毒毛虫の正体
庭の木々を手入れしているとき、突然「ビリッ!」と電気が走るような激痛に襲われた経験はありませんか?もし心当たりがあれば、それは「イラガ虫」の仕業かもしれません。
イラガ虫は、日本全国に生息する代表的な毒毛虫(ドクガ)の一種で、その幼虫は非常に強い毒を持っています。
見た目は鮮やかでユニークですが、うっかり触れてしまうと大変な痛みを伴うため、その正体と生態を正しく理解しておくことが、安全な庭づくりと適切な駆除の第一歩となります。
この章では、多くの人を悩ませるイラガ虫の見た目や一生、そしてどのような場所に発生しやすいのかを詳しく解説していきます。
イラガ虫の見た目と特徴
イラガは、幼虫、繭、成虫で全く異なる姿をしています。
特に注意が必要なのは、毒を持つ幼虫の時期です。それぞれの見た目と特徴を知っておきましょう。
【幼虫】
一般的に「イラガ虫」と呼ばれるのが、この幼虫です。
体長は25mmほどで、ずんぐりとした芋虫・毛虫の姿をしています。
体色は鮮やかな黄緑色が多く、背中には青や茶色の特徴的な模様があります。
最大の武器は、体中にびっしりと生えたトゲ(毒棘:どくきょく)です。このトゲに触れると先端が折れ、皮膚に毒液が注入される仕組みになっています。
刺された瞬間に電気が走るような激痛が起こることから、「電気虫(デンキムシ)」という別名でも知られています。
孵化したばかりの小さな幼虫でも毒を持っているので油断は禁物です。
【繭(まゆ)】
秋になり、十分に成長した幼虫は、木の枝や幹に硬い繭を作って冬を越します。
この繭は、直径1cmほどの卵型で、白地に黒や茶色の斑点模様があるのが特徴です。
その見た目がウズラの卵によく似ているため、簡単に見分けることができます。
「スズメノショウベンタゴ(雀の小便壺)」というユニークな俗称で呼ばれることもあります。
冬の間にこの繭を見つけて除去することが、翌年の発生を防ぐ重要な対策となります。
【成虫】
繭から羽化した成虫は、茶色を基調とした地味な見た目の「蛾」です。
大きさは開張長で30mm程度と比較的小さく、夜間に活動します。
幼虫の姿からは想像もつきませんが、成虫の蛾には毒はありません。
そのため、成虫を見かけても刺される心配はありませんが、この蛾が産卵することで翌年の幼虫発生に繋がります。
イラガ虫の一生と生態サイクル
イラガ虫の駆除や予防を効果的に行うためには、その一生(ライフサイクル)を知ることが非常に重要です。
活動時期や越冬方法を理解し、適切なタイミングで対策を講じましょう。
- 春〜初夏(5月〜7月):羽化・産卵
木の枝で越冬した繭から成虫の蛾が羽化します。成虫は夜間に活動し、交尾を終えたメスは、食草となる庭木の葉の裏に卵を数十個まとめて産み付けます。 - 初夏〜秋(6月〜10月):幼虫の発生と成長
卵から孵化した幼虫は、最初は集団で葉の裏に潜み、葉を食べて成長します。この時期は葉の裏側が白く透けて見える「食害痕」が発見のサインです。成長するにつれて体も大きくなり、集団から分散して木全体に広がっていきます。イラガの種類や地域によっては、年に2回(初夏と秋)発生することがあります。 - 秋〜冬(10月〜翌年春):繭での越冬
十分に成長した幼虫は、木の枝や幹、時には建物の壁などに移動し、硬い繭を作ってその中で蛹(さなぎ)になります。この状態で寒い冬を越し、翌年の春に再び成虫となって羽化します。
このサイクルを把握することで、「いつ、どこを、どのように」対策すれば良いかが見えてきます。
イラガ虫が発生しやすい庭木の種類
イラガ虫は食欲旺盛で、さまざまな樹木の葉を食べますが、特に好んで発生する木があります。
ご自宅の庭にこれらの木がないか確認してみましょう。
【特に発生しやすい代表的な庭木】
- カキノキ
- カエデ(モミジ)
- サクラ、ウメ、アンズ、スモモなどのバラ科の樹木
- ケヤキ
- ナシ、リンゴ、カイドウなどの果樹
- ヤナギ類
- クリ
- ザクロ
上記は一例であり、これら以外の広葉樹にも発生する可能性があります。
特にカキノキやカエデ(モミジ)は被害に遭いやすく、注意が必要です。
これらの樹木を植えているご家庭では、発生時期である初夏から秋にかけて、定期的に葉の裏などを観察することをおすすめします。
イラガ虫の発生時期と見つけ方
イラガ虫の駆除で最も重要なのは、被害が拡大する前の「早期発見」です。
発生時期と特徴的なサインを知っておけば、庭の手入れ中にいち早く気づき、迅速に対処することができます。
ここでは、イラガ虫がいつ、どこに発生しやすいのか、そして見つけるための具体的なチェックポイントを解説します。
イラガ虫の主な発生時期は初夏から秋
イラガ虫の幼虫は、年に1〜2回、主に初夏から秋にかけて発生します。
活動が活発になる時期を知ることで、重点的に庭木を観察し、発生初期に駆除することが可能になります。
一般的に、イラガ虫の発生サイクルは以下の通りです。
- 1回目の発生:6月〜7月頃
梅雨の時期と重なり、越冬した繭から成虫(蛾)が羽化し、庭木に産卵します。孵化した幼虫が葉を食べ始めるのがこの時期です。 - 2回目の発生:8月〜9月頃
1回目に発生した幼虫が成長して成虫となり、再び産卵することで発生します。夏の終わりから初秋にかけて、再び幼虫による被害が見られます。
ただし、その年の気候や地域によって発生時期は多少前後することがあります。
特に暖冬の年などは活動開始が早まる傾向があるため、5月下旬頃から庭木の様子を注意深く観察し始めるのがおすすめです。
この時期に庭木の剪定や草むしりをする際は、不用意に葉に触れないよう十分注意してください。
葉の裏をチェック イラガ虫を見つけるサイン
イラガ虫の幼虫は、鳥などの天敵から身を守るため、葉の裏側に集団で潜んでいることがほとんどです。
そのため、庭木をチェックする際は、葉の表面だけでなく、葉をめくって裏側までしっかり確認することが早期発見の鍵となります。
特に、イラガ虫の存在を示す「食害痕」と「フン」は重要なサインです。
食害痕による見つけ方
イラガ虫の食害痕には、幼虫の成長段階によって特徴的なパターンがあります。
まず、孵化したばかりの若い幼虫は、葉の裏側から葉肉だけを削るように食べます。
このとき、葉の表皮は食べ残されるため、葉が白っぽく透けて見える「かすり状」の食害痕ができます。
まるで和紙を透かしたように見えるこのサインを見つけたら、その葉の裏には小さな幼虫がびっしりと群がっている可能性が非常に高いです。
幼虫が成長するにつれて食欲も旺盛になり、葉脈以外の部分をすべて食べ尽くしてしまいます。
その結果、葉が網目状になる「レース状」の食害痕が残ります。
ここまで被害が進むと、庭木の見た目が損なわれるだけでなく、幼虫も大きく成長し、より広範囲に分散している可能性があります。
フンによる見つけ方
イラガ虫の幼虫がいる枝葉の真下には、黒や茶色の小さな粒状のフンがたくさん落ちています。
葉の上や地面に、見慣れない黒い粒が散らばっていたら、それはイラガ虫のフンかもしれません。
フンは、直接幼虫の姿が見えない高い場所や葉が茂っている場所でも、イラガ虫の存在を教えてくれる重要な手がかりです。
フンを見つけたら、その真上にある枝や葉の裏を念入りに調べてみましょう。
食害痕と合わせて確認することで、より確実にイラガ虫を発見できます。
イラガ虫の完全な駆除なら業者がオススメ!
イラガ虫は強い毒を持つ危険な害虫です。
自分で駆除することも可能ですが、刺されるリスクや高所作業の危険、そして何より完全に駆除しきれない可能性を考えると、専門の駆除業者に依頼するのが最も安全で確実な方法です。
特に、イラガ虫が広範囲に発生してしまった場合や、高い木の枝に巣を作っている場合は、迷わずプロに相談しましょう。
ここでは、業者に依頼するメリットと気になる費用相場について詳しく解説します。
駆除業者に依頼するメリット
害虫駆除の専門業者にイラガ虫の駆除を依頼することには、自分で作業するのとは比較にならないほどの大きなメリットがあります。
主なメリットを以下にまとめました。
- 圧倒的な安全性
イラガ虫の毒針毛は非常に危険で、刺されると激しい痛みに襲われます。業者は専用の防護服や手袋、保護メガネなどを着用し、安全対策を徹底した上で作業を行います。高所での作業も、専用の機材やはしごを使い安全に実施するため、転落などの事故の心配がありません。 - 徹底的で確実な駆除
プロはイラガ虫の生態を熟知しています。葉の裏にびっしりと付いた幼虫はもちろん、見つけにくい枝や幹に産み付けられた卵、越冬するための繭(まゆ)まで見つけ出し、根こそぎ駆除します。これにより、翌年以降の再発リスクを大幅に低減させることができます。 - 手間と時間の節約
自分で駆除する場合、防護服や殺虫剤、噴霧器などの準備から、実際の駆除作業、死骸の処理まで、多くの手間と時間がかかります。業者に依頼すれば、電話一本でこれらの作業をすべて任せることができ、貴重な時間と労力を節約できます。 - 専門的な薬剤と機材の使用
業者は、市販の殺虫剤よりも効果の高い業務用の薬剤を使用します。また、高い木のてっぺんまで薬剤を届かせるための動力噴霧器など、専門的な機材を駆使して効率的に駆除を行います。小さなお子様やペットがいるご家庭向けに、安全性の高い薬剤を選んでくれるなど、周辺環境への配慮も万全です。 - 再発防止に関する的確なアドバイス
駆除作業後には、イラガ虫が再発しにくい環境を作るためのアドバイスをもらえます。例えば、効果的な剪定の時期や方法、発生を予防するための薬剤散布のタイミングなど、専門家ならではの視点から庭木の手入れについて教えてもらえるのも大きなメリットです。
イラガ虫駆除の費用相場
イラガ虫の駆除を業者に依頼する際に、最も気になるのが費用でしょう。
費用は被害状況や庭木の大きさ・本数によって大きく変動しますが、一般的な相場を知っておくことで、業者選びの参考になります。
イラガ虫駆除の費用は、作業費と出張費を合わせた金額で提示されることが多く、料金体系は業者によって様々です。
一般的には、駆除対象となる木の高さや本数によって料金が設定されています。
【イラガ虫駆除の費用相場(木1本あたり)】
- 3m未満の低木:8,000円~15,000円程度
- 3m~5mの中木:15,000円~25,000円程度
- 5m以上の高木:20,000円~30,000円以上
上記の金額はあくまで目安です。
イラガ虫の発生量が多い場合や、作業しにくい場所にある場合、複数の木を同時に依頼する場合など、状況によって料金は変動します。
また、剪定や他の害虫の駆除も同時に依頼すると、セット料金で割安になることもあります。
正確な料金を知るためには、必ず複数の業者から見積もりを取ることをお勧めします。
多くの業者は無料で見積もりに対応してくれます。
見積もりを依頼する際は、料金の内訳(作業費、薬剤費、出張費など)を明確にしてもらい、追加料金が発生するケースはないかを確認することが重要です。
料金だけでなく、作業内容や保証の有無などを比較検討し、納得できる業者を選びましょう。
自分でできるイラガ虫の駆除方法
イラガ虫の駆除は、専門業者に依頼するだけでなく、ご自身で行うことも可能です。
特に発生初期であれば、比較的簡単に対処できます。
しかし、イラガは強い毒を持つ毒毛虫です。
駆除作業を行う際は、刺されないように万全の準備と正しい知識をもって臨むことが何よりも重要です。
ここでは、ご自身で安全にイラガを駆除するための具体的な方法を解説します。
駆除作業の前に必ず準備するもの
イラガの毒針毛は非常に細かく、直接触れなくても風で飛んできて皮膚に付着することがあります。
作業前には、肌の露出をなくし、毒針毛から身体を完全に防御するための準備を徹底しましょう。
【駆除作業の必須アイテム】
- 防護服・作業着:厚手で長袖、長ズボンの服を着用します。風で毒針毛が舞うため、首にはタオルを巻き、帽子もかぶりましょう。雨ガッパなど、表面がツルツルした素材の服は毒針毛が付着しにくくおすすめです。
- 保護メガネ:毒針毛が目に入るのを防ぎます。普段メガネをかけている方も、隙間から入る可能性があるため、ゴーグル型のものがより安全です。
- マスク:毒針毛を吸い込んでしまうのを防ぐために必ず着用してください。
- ゴム手袋:軍手は繊維の隙間から毒針毛が貫通する恐れがあるため、厚手のゴム手袋や、ビニール手袋の上に軍手を重ねるなどの対策をしてください。
- 道具類:剪定ばさみ、高枝切りばさみ、幼虫や葉を掴むためのトング、ゴミ袋(厚手のもの)など、駆除方法に合わせた道具を準備します。
駆除作業は、毒針毛が飛散しにくい風のない日に行うのが鉄則です。
また、風向きを考え、必ず風上に立って作業するように心がけてください。
発生初期に効果的な駆除方法 葉ごと除去する
イラガの幼虫は、孵化して間もない時期(発生初期)には、特定の葉の裏に数十匹が集団で固まっています。
この段階で発見できれば、最も簡単かつ確実に駆除できます。
【葉ごと除去する手順】
- イラガの幼虫が集まっている葉や枝を見つけます。
- 幼虫を刺激しないように、剪定ばさみや高枝切りばさみで、葉や枝ごと静かに切り取ります。
- 切り取った葉や枝は、絶対に素手で触らず、トングなどで掴んで厚手のビニール袋に入れます。
- 幼虫が驚いて糸を垂らして落下することがあるため、下にビニールシートなどを敷いておくと、後片付けが楽になります。地面に落ちた幼虫がいないか確認し、いればトングで拾って袋に入れます。
- 袋の口をしっかりと縛り、自治体のルールに従って可燃ゴミとして処分してください。
この方法は、薬剤を使わずに物理的に駆除できるため、環境への負荷が最も少ない方法です。
広範囲に発生した場合の駆除方法 殺虫剤を使う
幼虫が成長し、庭木のあちこちに分散してしまった場合は、殺虫剤(農薬)を使った駆除が効率的です。
イラガに効果のある殺虫剤を選び、正しく使用しましょう。
おすすめのイラガ虫駆除用殺虫剤
イラガ駆除には、毛虫に対応した殺虫剤が有効です。
ホームセンターや園芸店で入手しやすい代表的な殺虫剤をいくつかご紹介します。
- スミチオン乳剤:多くの害虫に効果がある定番の殺虫剤です。水で薄めて噴霧器で散布します。即効性があり、直接かかった害虫を駆除します。
- オルトラン液剤・水和剤:浸透移行性があり、薬剤が植物の葉や茎から吸収され、その植物を食べた害虫を駆除します。効果が持続し、予防効果も期待できます。
- ベニカXファインスプレー:殺虫成分と殺菌成分が含まれたスプレータイプの殺虫剤です。逆さまでもスプレーできるため、葉の裏にいるイラガにも散布しやすく手軽に使えます。
- モスピラン液剤:浸透移行性があり、効果の持続が期待できる殺虫剤です。アブラムシなど他の害虫にも効果があります。
ご家庭の庭木の種類や、他の病害虫の発生状況に合わせて適切な薬剤を選びましょう。
殺虫剤の安全な使い方と注意点
殺虫剤は効果が高い反面、使い方を誤ると人体や周囲の環境に影響を与える可能性があります。
製品のラベルに記載された使用方法を必ず守り、安全に配慮して作業を行ってください。
- 必ず保護具を着用する:前述した保護メガネ、マスク、ゴム手袋、長袖・長ズボンの服装は、薬剤散布時には必須です。
- 天候を選ぶ:風の強い日は薬剤が飛散し、ご近所迷惑になったり、自分にかかったりする危険があります。雨の日は薬剤が流れて効果が薄れるため、風のない穏やかな曇りの日や、晴れた日の早朝・夕方が最適です。
- 散布のポイント:イラガは葉の裏にいることが多いため、葉の表だけでなく、葉裏にもしっかりと薬剤がかかるように丁寧に散布します。
- 周囲への配慮:洗濯物やペット、子供のおもちゃなどは事前に片付けてください。また、池や水槽で魚を飼っている場合は、薬剤が入らないよう厳重に注意が必要です。ミツバチなどの益虫への影響を避けるため、花には直接散布しないようにしましょう。
- 使用後の管理:使い残した薬剤は、子供の手の届かない冷暗所に施錠して保管します。使用した噴霧器はよく洗浄してください。作業後は、必ず手や顔を石鹸でよく洗い、うがいをしましょう。
薬剤を使いたくない人向けの駆除方法
小さなお子様やペットがいるご家庭や、無農薬で植物を育てたいという理由で、化学殺虫剤の使用を避けたい方もいるでしょう。
その場合は、手間はかかりますが、薬剤を使わない方法で対処します。
- 捕殺:割り箸やトングを使い、幼虫を一匹ずつ捕まえて駆除する方法です。捕まえた幼虫は、石鹸水や熱湯を入れたバケツに入れると動かなくなります。地道な作業ですが、確実性は高いです。
- 熱湯:60℃以上のお湯をかけるとイラガは死滅します。ただし、植物自体も熱で大きなダメージを受けてしまうため、根元や幹など、植物に影響の少ない場所にいる場合に限定される方法です。葉にかけると葉が枯れてしまうので注意が必要です。
- 木酢液・竹酢液:殺虫効果はほとんどありませんが、独特の匂いで虫を寄せ付けにくくする忌避効果が期待できます。定期的に散布することで、イラガが寄り付きにくい環境を作ります。効果は限定的なため、他の方法と組み合わせるのがおすすめです。
これらの方法は、いずれもイラガに直接触れるリスクが高まります。作業の際は、殺虫剤を使う場合と同様に、完全な防護装備で臨んでください。
イラガ虫の再発を防ぐための予防策
一度イラガ虫を駆除しても、翌年また発生してしまっては意味がありません。
厄介なイラガ虫の被害を根本からなくすためには、駆除とあわせて「予防」を徹底することが何よりも重要です。
イラガの生態サイクルを理解し、適切な時期に適切な対策を行うことで、翌年以降の発生を効果的に抑えることができます。
ここでは、誰でも実践できる3つの効果的な予防策を詳しく解説します。
冬の間にできる予防 繭の除去
イラガの再発防止において、最も効果的で重要なのが冬場の「繭(まゆ)」の除去です。
イラガは幼虫の姿で冬を越すのではなく、硬い繭を作ってその中で蛹(さなぎ)となり越冬します。
この繭を取り除いてしまえば、翌春に成虫が羽化して産卵するのを防げるため、根本的な発生源対策となります。
イラガの繭は、白や茶褐色でウズラの卵によく似た形と模様をしており、「スズメノショウベンタゴ(雀の小便壺)」という俗称で呼ばれることもあります。大きさは1cm程度で、非常に硬いのが特徴です。
主に、カキノキ、サクラ、ウメ、ケヤキ、モミジといった落葉樹の枝や幹、枝の分かれ目などに巧妙に付着しています。
葉が落ちた冬の落葉樹は、この繭を見つける絶好の機会です。
繭を見つけたら、以下の手順で除去しましょう。
【繭の除去方法】
- 準備するもの:厚手のゴム手袋、保護メガネ、脚立、ヘラやマイナスドライバー、高枝切りばさみ、ゴミ袋
- 除去作業:
- 手の届く範囲にある繭は、ヘラやマイナスドライバーを使って削ぎ落とします。非常に硬く付着しているため、怪我をしないよう注意してください。
- 高い場所にある場合は、無理に登らず高枝切りばさみで繭が付着している小枝ごと切り落とします。
- 後処理:除去した繭は、地面に放置せず必ず回収してください。回収した繭は、靴で踏み潰して中の蛹を完全に駆除するか、ビニール袋などに入れて口をしっかり縛り、可燃ゴミとして処分します。
【注意点】
繭の表面や周辺には、幼虫時代の毒針毛が残っている可能性があります。
絶対に素手で触らず、必ず厚手のゴム手袋を着用してください。
また、削ぎ落とす際に破片が目に入らないよう、保護メガネの着用を強く推奨します。
庭木を剪定して風通しを良くする
庭木の健康を保ち、害虫の発生を防ぐ基本は「剪定」です。
枝葉が密集して風通しや日当たりが悪い場所は、湿気がこもりやすく、イラガの成虫が産卵するのに好都合な環境となってしまいます。
また、葉が茂っていると、鳥などの天敵から身を守る隠れ家にもなります。
定期的に剪定を行い、木の内部まで風と光が通るようにすることで、イラガが寄り付きにくい環境を作ることができます。
さらに、剪定によって樹形が整い、葉の裏側まで見やすくなるため、万が一イラガが発生しても食害痕や幼虫を早期に発見しやすくなるというメリットもあります。
【剪定のポイント】
- 時期:庭木の種類によって異なりますが、一般的に落葉樹は葉が落ちた休眠期の冬(11月~2月頃)、常緑樹は成長が落ち着く春(3月~4月頃)や秋(9月~10月頃)が適期です。
- 方法:不要な枝や混み合った枝、内側に向かって伸びる枝などを根元から切り落とす「透かし剪定」が効果的です。これにより、木全体の風通しと日当たりが劇的に改善されます。
ご自身での剪定が難しい場合や、どの枝を切れば良いか分からない場合は、無理をせず専門の造園業者や庭師に依頼することをおすすめします。
発生前の薬剤散布による予防
繭の除去や剪定とあわせて、薬剤による予防散布を行うとさらに効果的です。
イラガの幼虫が孵化して葉を食べ始める前に薬剤を散布しておくことで、発生そのものを防いだり、発生初期の段階で被害を最小限に食い止めたりすることができます。
【散布の時期と薬剤】
- 散布時期:イラガの成虫が活動を始め、産卵する時期である春先(4月~5月頃)が最初の散布タイミングです。その後、夏(7月~8月頃)に2回目の発生が見られるため、その前に追加で散布するとより効果が高まります。
- おすすめの薬剤:予防散布には、効果の持続期間が長い「浸透移行性」の殺虫剤が適しています。このタイプの薬剤は、植物の根や葉から吸収されて成分が木全体に行き渡るため、葉を食べたイラガの幼虫を効果的に駆除できます。
- 粒剤タイプ:住友化学園芸の「オルトラン粒剤」などが代表的です。木の根元に撒くだけなので手軽で、効果が1ヶ月ほど持続します。
- スプレータイプ:住友化学園芸の「ベニカXファインスプレー」などは、予防と治療の両方の効果を兼ね備えています。即効性があり、広範囲に手早く散布したい場合に便利です。
イラガに有効な薬剤については、ご自宅の庭木や状況に合ったものを選びましょう。
【薬剤散布の注意点】
- 薬剤を使用する際は、必ず製品のラベルや説明書をよく読み、記載されている使用方法、使用量、対象植物を守ってください。
- 散布作業は、風のない晴れた日の午前中に行うのが理想です。
- 薬剤の吸い込みや皮膚への付着を防ぐため、長袖・長ズボン、マスク、保護メガネ、農薬用手袋を必ず着用してください。
- 近隣の住宅や洗濯物、ペット、池などに薬剤が飛散しないよう、風向きには十分注意しましょう。
- ミツバチなどの益虫を保護するため、庭木の花が咲いている時期の散布は避けるようにしてください。
もしイラガ虫に刺されたら 症状と正しい対処法
庭木の剪定や草むしりの最中に、突然電気が走るような激痛が…!それはイラガの幼虫に触れてしまったサインかもしれません。
イラガの毒針毛(どくしんもう)は非常に鋭く、刺さると強い痛みを引き起こします。
しかし、パニックにならずに正しい手順で応急処置を行えば、症状の悪化を防ぐことができます。
万が一刺されてしまった場合の症状と、ご家庭でできる正しい対処法を詳しく解説します。
イラガ虫に刺されたときの症状
イラガに刺された(触れた)場合、直後から特徴的な症状が現れます。
症状の出方には個人差がありますが、一般的には次のような経過をたどります。
まず、刺された直後に「ビリビリ」「チクチク」とした、まるで電気が走ったかのような激しい痛みを感じます。
これはイラガの毒棘(どくきょく)が皮膚に刺さることによるもので、この電撃的な痛みがイラガの被害の最大の特徴です。
痛みは数時間続くこともあります。
その後、刺された箇所を中心に赤く腫れあがり、強いかゆみが出てきます。
数時間後から翌日にかけて、赤いブツブツとした発疹(丘疹)や、場合によっては水ぶくれ(水疱)ができることもあります。
かゆみや発疹はしつこく、1週間から2週間ほど続くことも珍しくありません。
掻きむしると症状が悪化し、とびひになったり、跡が残ったりする原因になるため、絶対に掻かないようにしましょう。
ごく稀ですが、ハチに刺されたときと同様に、体質によってはアナフィラキシーショックという重篤なアレルギー反応を引き起こす危険性もあります。
全身のじんましんや吐き気、息苦しさなどの症状が現れた場合は、命に関わるため、直ちに救急車を呼ぶ必要があります。
すぐにできる応急処置の手順
イラガに刺されたら、できるだけ早く応急処置を行うことが重要です。
以下の手順で冷静に対処してください。
1. 毒針毛を取り除く
まず、患部を絶対にこすったり掻いたりしないでください。
こすると皮膚に刺さった目に見えない微細な毒針毛がさらに深く刺さったり、周囲に被害が広がったりしてしまいます。
セロハンテープやガムテープなどの粘着テープを患部にそっと貼り付け、優しく剥がす作業を数回繰り返します。
こうすることで、皮膚に残った毒針毛を効率的に取り除くことができます。
2. 流水で洗い流す
毒針毛を取り除いたら、次に石鹸をよく泡立てて、強い流水で患部をしっかりと洗い流します。
これにより、皮膚の表面に付着した毒の成分を洗い流すことができます。
お湯は血行を促進し、痛みやかゆみを増幅させる可能性があるため、冷たい水かぬるま湯を使用しましょう。
3. 冷やして薬を塗る
洗い流した後は、清潔なタオルで水分を拭き取り、保冷剤や氷嚢(氷をビニール袋に入れたものでも可)をタオルで包んで患部を冷やします。
冷やすことで、痛みや腫れ、かゆみを和らげる効果があります。
その後、市販の虫刺され薬を塗布します。
炎症を抑える「ステロイド成分」と、かゆみを鎮める「抗ヒスタミン成分」の両方が配合された軟膏やクリームが効果的です。
薬局やドラッグストアで薬剤師に相談し、症状に適した薬を選びましょう。
アンモニア水はイラガの毒には効果がないため、使用しないでください。
病院に行くべき症状の目安
ほとんどの場合はセルフケアで改善に向かいますが、以下のような症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。
特に小さなお子様や高齢者、アレルギー体質の方は症状が重くなりやすいため注意が必要です。
受診する診療科は「皮膚科」が基本です。
強いアレルギー症状が出ている場合は「アレルギー科」の受診も検討しましょう。
【皮膚科の受診を推奨する症状】
- 痛みが非常に強く、我慢できない、または長時間続く場合
- 腫れや赤みが広範囲に及んでいる場合
- 水ぶくれが多数できたり、大きく腫れあがったりした場合
- 掻きむしってしまい、じゅくじゅくして化膿の兆候がある場合
- セルフケアをしても症状が改善しない、または悪化する場合
- 過去に毛虫に刺されて、ひどい症状が出たことがある場合
【緊急性の高いアナフィラキシーの兆候】
以下の症状が一つでも現れた場合は、アナフィラキシーショックの可能性があります。
命の危険があるため、ためらわずに救急車(119番)を呼んでください。
-
- 刺された場所以外にも、全身にじんましんが広がる
- 息苦しさ、呼吸困難、声がかすれる
- めまい、立ちくらみ、意識がもうろうとする
- 吐き気、嘔吐、激しい腹痛
イラガによる皮膚炎の対処法については、専門機関の情報も参考になります。
まとめ
イラガ虫は強い痛みを引き起こす毒毛虫で、庭木に発生すると非常に危険です。
駆除は発生状況に合わせて行うことが重要で、初期段階なら葉ごと取り除くのが手軽です。
広範囲に広がった場合は殺虫剤が有効ですが、安全と確実性を最優先するなら専門業者への依頼が最善の結論と言えるでしょう。
冬の間の繭の除去や剪定といった予防策も徹底し、もし刺された際は慌てず応急処置を行いましょう。
本記事を参考に、適切な対策で安全にイラガ虫を駆除してください。